大判例

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東京高等裁判所 昭和29年(う)1161号 判決

被告人 金今洙 外

〔抄 録〕

A弁護人の論旨第一点並びにB弁護人の量刑不当以外の論旨について。

訴訟記録を調査するに、被告人両名に対する本件起訴状の末尾に「罪名及罰条」と題しその記載欄を設けながらなんら具体的に罪名及罰条の記載なく空白になつていることは所論のとおりである。而して罪名が起訴状の記載要件であること、また罪名は罰条を示してこれを記載しなければならないことは刑事訴訟法第二百五十六条の規定に徴し多言を要しないところである。然しながら法律が起訴状に罪名、罰条の記載を要求する所以は畢竟するに、起訴の範囲を明確にし、被告人の防禦権行使に支障なからしめようとするに外ならないものと解するを相当とする。而して起訴の範囲は起訴状に明示された起訴事実(訴因)そのものを基本として観察せらるべきものであり、罪名、罰条の如きは起訴事実と相俟つて起訴の範囲を明らかならしめる為めの補助的なものに過ぎないと解すべきである。これを本件について見るに、本件起訴状の冒頭には、左記被告人等に対する窃盗被告事件につき公訴を提起し公判を請求すると記載し、公訴事実として一、被告人等共謀の上昭和二十九年一月二十日頃の午後八時頃横浜市中区石川町一の四五番地加藤明子方において同人所有に係るミシン頭一台他五十点(合計価格十一万一千八百五十円相当)を窃取したものであると簡潔に起訴事実が記載されているのであるから前記冒頭記載と右起訴事実に徴すれば被告人両名は窃盗の罪名の下に起訴されたものであり、而してその起訴の範囲は一目瞭然なんら所論のような疑義を挾む余地のないことが明らかである。従つて所論指摘のとおりたとえ起訴状の末尾に罪名及罰条の記載がなくとも被告人等の防禦権の行使になんら支障ないものと謂うべく、さればこそ原審法廷においては被告人並びにその弁護人が所論の点について全然異議を述べることなく審理判決を受けたものと断定せざるを得ない次第である。なお高橋弁護人引用の検察庁法第四条は検察官の職務内容を規定したものであり、一方起訴状の効力有無如何は純然たる刑事訴訟法上の問題であつて同法の規定に照して決定すべき問題であるから本件について所論の如く検察庁法の規定を立論の根拠とするは妥当でない。これを要するに本件起訴状がその形式において不備の点の存することは否定し得ないが、これがために被告人の防禦に実質的な不利益を生ずる虞がなく未だ以て本件公訴の提起を無効とする程のものでないと謂わざるを得ない。従つて原審裁判官が本件公訴を棄却することなく、被告人両名に対し起訴事実を認定処断したことは当然の措置と謂うべく、訴訟記録に徴するも原判決には所論のようなこれを破棄すべき違法の点あるを見ない。各論旨は理由がない。

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